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ドキュメンタリー映画「南インド、タラブックスの印刷工房の一日」のこと

11月30日、京都の恵文社一乗寺店で、ドキュメンタリー映画「南インド、タラブックスの印刷工房の一日」(山根晋監督・製作/53分/日本語字幕)の初上映があった。
タラブックスの美しい本は、どんな場所で、どんな人たちによって作られているのだろうか。
実際の空気を少しでも感じたいと、会場へ向かった。

上映時間は53分。セリフや説明は少なく、印刷工房での日常(仕事と生活)が淡々と映し出されていく。
住み込みで働く社員たちが、当番制で料理して、おかずやごはんの鍋を次の人へ回しながら、みんなで車座になって食事する。
外の水道でシャンプーをしたり、歯をみがいたり。仲間のひげを剃ってあげたり。
寝る前のひとときはスマホチェック。鍛えた肉体をSNSにアップするのが流行ってるらしい。
夜はそれぞれ好きな場所に敷物をしいて寝る。インクのにおいに満ちた作業場で寝るひと、
屋上で寝るひと(朝のカラスのけたたましい鳴き声にも目を覚まさない)、ぐっすりと眠っている。

もちろん、製版、印刷、製本などの本の制作工程も映ってはいるのだが、
印象に残るのは「本のつくり方」ではなく、「本をつくる人」のほう。
少し離れた場所から、その人の表情をじーっと撮影する手法が何度か出てきたが、
山根監督が上映後のトークで、タラブックスの「生」の部分に迫りたかったとおっしゃっていた通り、
こういった映像の羅列が「生」の部分を、たしかに浮き彫りにしていたと思う。

それは同じくトークで、翻訳家のスラニー・京子さんがおしえてくれた、
タラブックス社主のひとり、V・ギータさんの言葉とつながるように思えた。
「タラブックスを必要以上に神聖視しないでほしい」
タラブックスは世界中から愛されていて、コレクターが夢中になるような美しい本を出版する会社だが、
そこには日常がしっかりあって、働く人も地に足がついていて、普通に暮らし、仕事をしている。
その揺るぎのない日々の安定感が、この本を作る基盤にあるのだと感じた。
普通で、普遍的なものは、場所も時間も超えて多くの人の共感をよび、残っていく。
タラブックスはそういうことを実践しているのだと思った。

もう一度、じっくりこの映画を観たい。上映の機会がどうかもっと増えますように!

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