旧奈良監獄と奈良少年刑務所
![](http://shiori-sha.com/wp-content/uploads/2018/11/shoei_narakangoku_c.jpg)
旧奈良監獄のことはごく最近、
『写真集 美しい刑務所 明治の名煉瓦建築 奈良少年刑務所』
(西日本出版社)
を目にする機会があって、初めて知った。
戦後は奈良少年刑務所として、2017年まで大事に使われてきたこの建物は、
これから改修工事に入り、2019年秋には史料館がオープン、
そして2021年には「監獄ホテル」に生まれ変わるという。
折りよく、最後の完全公開イベントがあり、最初で最後の見学がかなった。
丘の上、空が開けた気持ちのよい場所に旧奈良監獄はある。
古びて風合いの増した城壁。
童話に出てくるお城のようなかわいらしい外観。
曲線を多く使い、優美な内装。
美と機能が完全に両立した監獄だと思った。
とはいえ、まだ冬にはならないこの時期でも、
見学を続けているとつま先からどんどん体が冷えてくる。
煉瓦建築は夏も冬もそれぞれに、気温からの苦しさを増幅する一面があるらしい。
ここに収容されていたひとたちのことを考える。
特に、最近までここで生活していた少年刑務所の受刑者のことを思う。
奈良少年刑務所は、懲罰よりも更正に重きをおき、
治療や教育プログラムが充実している、とかつて読んだことがあった。
実際にはどういったことがなされてきたのだろう?
そんな疑問に、ひとつ答えてくれる本を、見学会の会場で手に入れることができた。
寮美千子著『あふれでたのは やさしさだった 奈良少年刑務所 絵本と詩の教室』
(西日本出版社)12月7日発売予定 *今回はイベントでの先行発売
この本は、奈良少年刑務所の「社会性涵養プログラム」の一つとして、
とりわけ、ひととコミュニケーションを取ることが苦手な受刑者を選んで、
月に一度、半年間にわたって開講された詩の教室についてのノンフィクションだ。
(涵養ということばがとてもいいと思う。水がしみ込むように徐々に養い育てるという意味)
この本を一息に読んだ後、
性善説について
自分では選べない生まれ育つ環境のこと
犯罪をおかした人と自分との境界線
人の心持ちが変化するきっかけ
やさしさとはどんなものか
など、ぐるぐると考えを巡らすことになった。
この教室から生まれた詩をひとつだけ紹介したい。
くも
空が青いから白をえらんだのです
この詩の意味を知ったとき、涙がこぼれない人はいないと思う。
ぜひこの本を手にとって、絵本と詩の教室で実際にどんなことが起きたのか、
たくさんの人に知ってほしいと思った。